委員長挨拶

現在、喫煙者数はわが国で約3千4百万人、世界で12億5千万人であり、喫煙による死者は、わが国で11万人/年、世界全体で500万人/年、今後ますます増加し、20年後には1,000万人/年と倍増し、21世紀中に約10億人(20世紀の10倍)死亡するとされています。喫煙による死者は禁煙先進国である欧米では近年減少していますので、死者の増大は禁煙後進国である我が国や発達途上国で起きます。さらに、損失コストは我が国だけで約5.6兆円/年で、タバコ関連税収(1兆9000億円)を含めた収益約2.8兆円/年の2倍です。これらは禁煙により防げるわけですので、喫煙関連疾患は予防可能な単一疾患としては最大の病気であり、世界保健機関が指摘しているように禁煙は、今日最も確実に大量の重篤な疾病を劇的に減らし、国民の健康の維持と莫大な保険財政の節約に寄与する最大のものということになります。したがって今、我々医療者は、「喫煙は趣味・嗜好ではなく」、「喫煙は病気、喫煙者は患者」としてこの問題を正面から取り組むべき時であると思われます。
ご承知のように、喫煙による疾患はニコチン依存症の精神科領域から脳・心・血管疾患の循環器領域、肺癌・COPDの呼吸器領域、食道癌・潰瘍等の消化器領域、喉頭癌の耳鼻咽喉科領域、口腔癌・歯周病等の歯科領域、さらに小児科領域、産婦人科領域、麻酔科領域、皮膚科領域、眼科領域、泌尿器科領域等全身に障害をもたらします。さらに喫煙問題はニコチン依存症に対する保険医療、受動喫煙防止法、未成年者喫煙禁止法、タバコ事業法、たばこ規制に関する世界保健機関(WHO)枠組条約(FCTC)等の国・行政と直接絡んだ社会問題・政治問題を含んでいます。そのため、喫煙問題の解決には、それぞれの学会の独自の努力が重要であることは言うまでもありませんが、それだけではカバーできない社会・政治問題も多く、喫煙疾患関連学会全体が協力・連携してはじめて取り組めるあるいはその方が効果的である問題も多数あります。たとえば2005年の9学会合同「禁煙ガイドライン」の作成、2005年に厚生労働省に提出したニコチン依存症の保険診療実現のための11学会合同「保険禁煙治療の医療技術評価希望書」、2006年の11学会合同「JR6社に対する新幹線・特急列車等の全面禁煙化、駅構内禁煙化の要望」、2007年の厚生労働省に対する11学会合同「ニコチン依存症管理料の施設基準ならびに算定要件の見直しに関する要望書」、2008年の神奈川県に対する11学会合同「神奈川県禁煙条例の素案への賛意と若干の要望」、2009年12学会合同「財務省・厚生労働省へのたばこ税引き上げの要望」等がその代表です。
禁煙推進学術ネットワークは「禁煙ガイドライン」を作成した9学会とそのメンバーが中核となり、現在正式に参加している15の学会を母体として、これら学会と協力・連携して禁煙を推進するためのさまざまな情報・施策を社会に発信すると共に国・自治体・会社・団体等に要望し、さらに喫煙疾患の診療・研究・教育をサポートするユニークな組織です。
本ネットワークの主旨に賛同していただける新たな学会の参加を期待すると共に脱タバコ社会が一日も早く実現するため努力してゆきたく思います。
平成22年8月1日
禁煙推進学術ネットワーク委員長 藤原 久義 Hisayoshi Fujiwara |
